第二夜
こんな夢を見た。 |
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て、悉く切先へ集まつて、殺気を一点に籠めている。自分は此の鋭い刃が、無念にも針の頭の様に縮められて、九寸五分の先へ来て已を得ず尖つてるのを見て、忽ちぐさりと遣り度なつた。身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握つている束がにちやにちやする。唇がふるへた。 短刀を鞘へ納めて右脇へ引きつけて置いて、それから全伽を組んだ。――趙州曰く無と。無とは何だ。糞坊主めと歯噛をした。 奥歯を強く咬み締めたので、鼻から熱い息が荒く出る。米噛が釣つて痛い。眼は普通の倍も大きく開けてやつた。 懸物が見える。行燈が見える。畳が見える。和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑つた声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟つてやる。無だ、無だと舌の根で念じた。無だと云ふのに矢つ張り線香の香がした。何だ線香の癖に。 自分はいきなり拳骨を固めて自分の頭をいやと云ふ程なぐつた。さうして奥歯をぎりぎりと噛んだ。両腋から汗が出る。背中が棒の様になつた。膝の接目が急に痛くなつた。膝が折れたつてどうあるものかと思つた。けれども痛い。苦しい。無は中々出て来ない。出て来ると思ふとすぐ痛くなる。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。一と思に身を大巌の上に打けて、骨も肉も滅茶々々に砕いて仕舞ひたくなる。 それでも我慢して凝と坐つていた。堪へがたい程切ないものを胸に盛れて忍んでいた。其切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹き出やう出やうと焦るけれども、何処にも一面に塞がつて、丸で出口がない様な残刻極まる状態であつた。 其の内に頭が変になつた。行燈も蕪村の画も、畳も、違棚も有つて無い様な、無くつて有る様に見えた。と云つて無はちつとも現前しない。たゞ、好加減に坐つていた様である。所へ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。 はつと思つた。右の手をすぐ短刀に掛けた。時計が二つ目をチーンと打つた。 |
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