第五夜
こんな夢を見た。 |
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大将は腰を掛けた儘、篝火を眺めている。自分は大きな藁沓を組み合はした儘、草の上で女を待つている。夜は段々更ける。 時々篝火が崩れる音がする。崩れる度に狼狽た様に焔が大将になだれかゝる。真黒な眉の下で、大将の眼がぴかぴかと光つている。すると誰やら来て、新しい枝を沢山火の中へなげ込んで行く。しばらくすると、火がぱちぱちと鳴る。暗闇を弾き返す様な勇ましい音であつた。 此時女は、裏の楢の木に繋いである、白い馬を引き出した。鬣を三度撫でゝ高い背にひらりと飛び乗つた。鞍もない鐙もない裸馬であつた。長く白い足で、太腹を蹴ると、馬は一散に駆け出した。誰かゞ篝りを継ぎ足したので、遠くの空が薄明るく見える。馬は此の明るいものを目懸て闇の中を飛んで来る。鼻から火の柱の様な息を二本出して飛んで来る。それでも女は細い足でしきりなしに馬の腹を蹴ている。馬は蹄の音が宙で鳴る程早く飛んで来る。女の髪は吹流しの様に闇の中に尾を曵いた。それでもまだ篝のある所迄来られない。 すると真闇な道の傍で、忽ちこけこつこうと云ふ鶏の声がした。女は身を空様に、両手に握つた手綱をうんと控えた。馬は前足の蹄を堅い岩の上に発矢と刻み込んだ。 こけこつこうと鶏がまた一声鳴いた。 女はあつと云って、緊めた手綱を一度に緩めた。馬は諸膝を折る。乗つた人と共に真向に前へのめつた。岩の下は深い淵であつた。 蹄の跡はいまだに岩の上に残つて居る。鶏の鳴く真似をしたものは天探女(あまのじゃく)である。此の蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。 |
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